サルバドール・ヱビ

超現実珍談集

逆噴射

帰路の夜の航空機。
右の窓を見るとたった一つの満月が見える。
左の窓を見ると数百万の都市の光が見える。
こんな風景が見えるシチュヱーションで
産まれながらの超現実的詩人にとって
脳内で詩を書くことは
いとも簡単なことであるが
同時に産まれながらのダダイストである
私は心を鬼にしてアマノジャクとなる。
言葉を交わした人々の顔が次々に浮かぶ。
今後言葉を交わすであろう人々の顔も
次々に浮かんでくる。
疲れ切った私はそれを拒否する。
3人の顔だけを浮かべる。
全ての残像をかき消すために。
そして意識を変移させるために
これから体感する
着陸時の逆噴射のことを考え始める。
噴射より逆噴射が好きだ。
逆噴射はまるで
チャーハンのスープのようだ。
スープの君が主役だよ。
そう。
チャーハンのスープを逆噴射するのだ。
あの美しい満月にも
数百万の光を放つあの都市にも
微笑みかけるキャビンアテンダントにも
チャーハンのスープを逆噴射するのだ。
人間が元々狂っていることなんて
わかってたことじゃないか。
テクノロジーが可視化してしまっただけだ。
おぞましい世界を必要としない私は
ただただ運が良かったのだ。
感謝のチモキと謙虚さを胸に秘めながら
着陸態勢のアナウンスを
人生の離陸態勢を取れと解釈しよう。